共同意思決定(SDM)って何?人生会議(ACP)との違いは?

医療・介護の現場では、利用者本人が自分の治療やケアの方向性をしっかり理解し、自分の意思で決定できるように支援することが求められます。ケアマネジャーにとっても、利用者やそのご家族とのコミュニケーションの質を高めるために、共有意思決定(SDM)の考え方がとても重要です。

利用者本人の満足度向上や、医療や介護の専門家としての役割を発揮しやすくするためにも、SDMを上手に取り入れるポイントを押さえながら、多職種との連携をスムーズに進めていくことが大切です。

共有意思決定(SDM)の基本

共有意思決定(SDM)を理解するうえで、まずはその概念やプロセス、そして医療・介護の現場でどのような意義があるのかを知ることが大切です。

共有意思決定(SDM)の概念

共有意思決定(SDM)とは、医療・介護の専門職と利用者、そして家族や関係者が対等な立場で話し合い、最適なケアや治療の方針を一緒に決めていく考え方です。従来のように専門家が一方的に方針を提示するのではなく、利用者の価値観や希望をしっかり反映させる特徴があります。

医療や介護の技術が進むにつれ、多様な選択肢が生まれています。しかし、利用者本人が適切な選択をするためには、自分自身の意向だけでなく、メリットやデメリット、費用や生活背景などを総合的に理解する必要があります。そのため、専門家と利用者が協同で情報を整理し、一緒に判断する仕組みが重視されるようになりました。

共有意思決定(SDM)は「専門家の知識・経験」と「利用者の価値観・願い」を融合させるプロセスとして、世界的にも注目を集めています。

共有意思決定(SDM)のプロセス

SDMの基本プロセスは、おおまかに次の段階に分けられます。

  1. 選択肢の提示と情報提供
  2. 利用者と専門家の意見交換
  3. 合意形成と意思決定

最初に、医療・介護の専門家が利用者の状態や希望に合う選択肢を整理し、わかりやすい情報を提供します。その上で、利用者本人が抱える疑問や不安などを共有してお互いに話し合い、十分な理解を得ながら合意を形成します。これにより、利用者は納得した状態で治療やケアを受けられ、専門家側も利用者の価値観を考慮した支援ができます。

また、決定後も定期的に状況を振り返り、必要があれば選択を修正する柔軟性もSDMの重要なポイントです。特に体調の変化が大きい高齢者や、病状が進行するケースでは、こまめな再評価と相談が欠かせません。

医療・介護の現場におけるSDMの意義

医療や介護の現場では、利用者が自分の意思を確認しながらケアを受けることが安心感や満足度の向上につながります。専門家が利用者の思いを尊重しつつ必要な情報を提供していけば、利用者自身が主体的に参加するケア体制を築きやすくなります。

さらに、利用者のご家族や関係者とのコミュニケーションが円滑になるという利点もあります。意思決定のプロセスを共有することで、「あとから説明が足りなかった」「意見を聞いてもらえなかった」といったトラブルを減らすことができます。ケアマネジャーとしては、こうした協働の姿勢を持つことで、チーム全体の連携がスムーズになりやすいです。

共有意思決定(SDM)における医療と介護の連携

共有意思決定(SDM)を実践するためには、医療スタッフと介護職が連携し合う体制づくりが欠かせません。互いの専門性を理解し、それぞれの視点を踏まえながらサポートを提供するポイントを押さえることで、より質の高いケアを実現できます。

医療スタッフとの連携ポイント

医師や看護師などの医療スタッフと連携する際は、症状の変化や処方内容など、医学的根拠に基づいた情報を適切に共有することが重要です。特に高度な医療処置が必要な方や複数の疾患を抱える方の場合、医療面からのアドバイスをもとにケアの選択肢を具体化すると、利用者にとってわかりやすい説明がしやすくなります。

また、医療スタッフとのコミュニケーションが不足すると、利用者本人に対する情報の提供が片寄りがちです。医療情報や治療計画の共有はSDMの土台を支える重要な要素なので、電子カルテやカンファレンスなどの場を活用しながら密に連絡を取りましょう。

介護職との連携ポイント

介護スタッフは、日常生活の支援やレクリエーションなど、利用者の生活面を中心に関わる専門家です。ケアマネジャーは、介護の現場で得られる利用者の生活情報や心の状態を踏まえながら、本人に合ったケアプランを構築する役割があります。

共有意思決定(SDM)の観点からは、利用者の「生活の質」を重視した情報を介護職と共有すると良いです。たとえば、普段の生活動作や食事の好み、趣味の有無などを把握し、それを支援計画や医療面での相談内容に反映させると、利用者や家族が納得しやすいケアの選択肢を提案できるようになります。

多職種連携で生まれる相乗効果

医療職、介護職、リハビリスタッフ、栄養士など、多職種が連携を深めることで、利用者に対して多角的なサポートが可能になります。共有意思決定(SDM)は、こうした多職種連携と相性が良く、各専門家が得意とする情報を統合しながら利用者が判断しやすい環境を整えます。

その結果、利用者は自分の体調や生活スタイルに関して多面的な説明を受けることができ、専門家側も効率よく情報交換を行いながら一貫したケア方針を打ち出せます。ケアマネジャーは、この多職種連携をコーディネートしつつ、利用者と専門家の橋渡しを行うのが大きな役目です。

共有意思決定(SDM)のメリット

共有意思決定(SDM)を導入することによって得られるメリットは、利用者はもちろんのこと、ケアマネジャーや医療・介護スタッフにも多大な恩恵があります。ここでは、その具体例を見ていきます。

利用者本人の安心感と納得感

最も大きなメリットは、利用者本人が自分の治療やケアに納得しやすくなることです。専門家から選択肢のメリット・デメリットを十分に聞いたうえで、自分の希望やライフスタイルに合った選択を行えるという安心感につながります。

また、自分で意思決定を行うという経験は、自己肯定感や満足度の向上につながりやすいです。とくに、高齢者や慢性的な疾患をお持ちの方は、医療・介護の選択肢が複数存在する状況で「どれを選んでいいかわからない」と不安を感じることが少なくありません。そんなとき、専門家と対等に話し合えるSDMは、本人の気持ちを尊重するケアの実践としてとても有効です。

ケアマネジャーの支援効率向上

共有意思決定(SDM)の導入は、ケアマネジャー自身の業務効率化にもつながります。利用者との面談でお互いに認識を深められるため、後になって「思っていたことと違う」「もっと情報を欲しかった」というトラブルを減らしやすいです。

加えて、利用者を取り囲む医療・介護スタッフとの連携がスムーズになるメリットも見逃せません。SDMを前提に情報交換を行うと、それぞれの専門家が自分の領域だけでなく、全体像を把握する意識を持ちやすくなります。ケアマネジャーは調整役としての負担が軽減し、利用者の満足度向上と連動して自己評価も高まる傾向があります

共有意思決定(SDM)の注意点

多くのメリットがある共有意思決定(SDM)ですが、実践するうえで注意すべき点も存在します。利用者とのコミュニケーションや情報提供の方法など、慎重に考慮することでより良いSDMが実現しやすくなります。

多様な意思表示方法への配慮

利用者によっては言語能力の低下、認知機能の問題、コミュニケーション障害など、さまざまな事情で意思表示がスムーズにできない場合があります。そのような方にも参加しやすい意思決定の場をつくることが大切です。たとえば、イラストや写真を活用した説明資料を用意したり、ゆっくり話す、こまめに相槌を打つなどの工夫が必要となります。

また、家族が代弁することで利用者本人の意向が正確に伝わらないケースもあります。共有意思決定(SDM)では、あくまで本人の思いを中心に据えながら、家族の意見も参考にするバランスが重要です。

情報提供のタイミングと量

情報を一度に大量に提供してしまうと、利用者が混乱してしまうことがあります。特に高齢者や初めて医療・介護サービスを利用する方は、専門用語や制度の仕組みを理解するだけでも大変です。段階的に情報を小分けして提供し、重要なポイントは何度か繰り返して伝える工夫が望ましいです。

また、タイミングも大切です。体調が不安定なときや忙しさが重なっているときに多くの情報を伝えても、十分に理解してもらえないことがあります。利用者や家族の生活リズムや体調を考慮して、落ち着いて話し合える時間を確保しましょう。

法的・倫理的な側面

共有意思決定(SDM)では利用者が主体的に意思決定を行いますが、法的に判断能力が不十分とされる方の場合は別の対応が求められる場合があります。後見人や家族、医療・介護スタッフが一緒に話し合いを行い、本人の最善の利益を守りながら決定していく形を模索することが必要です。

また、介入が必要な場面やリスクが高いケア内容では、専門家として最低限守るべき基準や安全策を遵守することが前提です。共有意思決定(SDM)はあくまで利用者の選択を尊重するアプローチでありながら、専門家としての責任や倫理観を忘れてはいけません

共有意思決定(SDM)を取り入れた施設・サービス選びのポイント

医療や介護サービスを利用する際は、利用者と専門家が対話を重ねることで、より適切な施設やサービスを選択できます。SDMの視点を取り入れることで、利用者の希望に合ったケア環境を探しやすくなります。

情報収集の方法

まずは利用者が納得できる情報を幅広く集めることから始めます。公的機関や地域包括支援センターなどから得られる情報だけでなく、医療機関や介護施設のパンフレットやウェブサイトなども活用すると、サービス内容を比較しやすいです。医療機関や施設の見学や説明会などに参加すると、より具体的なイメージが湧きやすくなります。

以下のように、施設種別や特徴を簡単にまとめる表を作成して整理すると、利用者や家族が後で見返しやすくなります。

施設・サービス種別 主な特徴 提供されるケア
介護老人保健施設 リハビリ重視 医療・看護ケア、リハビリ
特別養護老人ホーム 長期入所が可能 生活支援全般、医療対応は限定的
有料老人ホーム サービスや料金形態が多様 介護・看護・生活支援全般
デイサービス 在宅生活を継続しやすい 日中の介護、機能訓練、レクリエーション

上記のように整理しておくと、利用者本人や家族が「どの施設・サービスがどんな特徴を持っているのか」をイメージしやすくなります。SDMでは、こうした客観的情報を元に本人のニーズや希望をすり合わせる作業が肝心です。

利用者の価値観・希望の共有

情報を集めたら、利用者の「どんな生活を送りたいか」「ケアや医療のどこを重視したいか」といった価値観を明確にすることが大切です。人によっては「長く住みなれた地域で暮らしたい」「リハビリを重視したい」「費用をできるだけ抑えたい」など優先順位が異なります。

ケアマネジャーとしては、利用者の生活背景や将来的な見通しを踏まえながら、施設やサービスが持つメリットだけでなく、制約や注意点も伝えましょう。利用者の想いを正確に把握したうえで、具体的な選択肢を一緒に並べて検討するプロセスこそが、共有意思決定(SDM)の強みです。

施設スタッフとの連携確認

実際に施設を利用する段階になったら、スタッフとコミュニケーションを重ねることが重要です。なぜなら、入所後や通所後に利用者が要望を伝えようとしても、施設側の方針やサービス形態との齟齬が生じる可能性があるからです。

事前に「どの程度の医療対応が可能か」「緊急時の対応はどうなるか」「レクリエーションの内容は合っているか」などを確認し、利用者や家族が抱く不安や疑問を解消しましょう。初期の段階でしっかりと要望を伝えておくことが、その後のトラブル防止につながります

まとめ

利用者の価値観や生活背景を踏まえながら複数の選択肢を検討し、対等な立場で情報交換を行う共有意思決定(SDM)は、医療と介護が複雑化する現代においてますます重要性を増しています。ケアマネジャーとしては、多職種との連携を円滑に行いつつ、利用者本人が主体的にケアを選べる環境をつくることが求められます。メリットや注意点をしっかり把握しながら、実践しやすい方法を見つけていくことで、利用者にとっても専門家にとっても納得感の高いケアが可能になります。

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