認知症で公的介護保険を利用するには

認知症は高齢化社会における大きな課題の一つであり、日本では65歳以上の約8人に1人が認知症であると推定されています。認知症患者の増加に伴い、介護の負担や社会的コストの増大が懸念される中、公的介護保険制度の理解と活用が重要となっています。

本記事では、認知症の定義や種類、現状について解説するとともに、認知症患者が利用できる公的介護保険サービスや、要介護認定の基準、自己負担割合などについて詳しく紹介します。また、公的介護保険を補完する民間の介護保険や、認知症に特化した認知症保険の役割、特徴、加入のポイントについても触れています。

認知症は誰にでも起こりうる身近な病気ですが、予防と早期発見・早期対応に努めることで、発症リスクを下げたり、症状の進行を緩やかにしたりできる可能性があります。適切な治療とケアを受けながら、できる限り自立した生活を送るためにも、公的介護保険制度を上手に活用し、必要に応じて民間保険も組み合わせた備えを検討することが大切です。

認知症とは

認知症とは、脳の障害により認知機能が低下し、記憶障害や失語などの症状が現れる状態を指します。これらの症状によって、社会生活や日常生活に支障をきたすようになります。

認知症の主な症状としては、記憶障害、見当識障害、言語障害、実行機能障害、判断力の低下などが挙げられます。症状は徐々に進行し、初期には本人も自覚しにくいことがあります。

認知症の主な種類

認知症には様々な種類がありますが、代表的なものとしては以下のようなものがあります。

  • アルツハイマー型認知症
  • 脳血管性認知症
  • レビー小体型認知症
  • 前頭側頭型認知症

最も多いのはアルツハイマー型認知症で、全体の約60~70%を占めると言われています。脳内に異常なたんぱく質が蓄積することで神経細胞が徐々に死んでいき、認知機能が低下していきます。

認知症と加齢によるもの忘れの違い

高齢になると、多くの人にもの忘れが見られるようになります。しかし、加齢によるもの忘れと認知症によるもの忘れには違いがあります。

加齢によるもの忘れ認知症によるもの忘れ
もの忘れの自覚があるもの忘れの自覚がない
体験の一部を忘れる体験そのものを忘れる
ヒントを与えれば思い出せるヒントを与えても思い出せない

加齢によるもの忘れは誰にでも起こり得るものですが、認知症によるもの忘れは生活に支障をきたすほど進行していきます。もの忘れが気になる場合は、早めに専門医に相談することが大切です。

軽度認知障害(MCI)の特徴

軽度認知障害(MCI)とは、認知症の前段階とも言える状態です。記憶力の低下などの症状はあるものの、日常生活に大きな支障はありません。

しかし、MCIと診断された人の中には、毎年10~15%の割合で認知症に移行していくと言われています。MCIの段階で適切な対応を取ることで、認知症への移行を遅らせたり、症状の進行を緩やかにしたりできる可能性があります。

認知症の段階健常軽度認知障害(MCI)認知症
認知機能問題なし軽度の低下顕著な低下
日常生活への影響なしほとんどなし支障あり

認知症は誰にでも起こりうる身近な病気です。早期発見・早期対応が何より大切であり、もの忘れが気になったら躊躇せずに専門医に相談しましょう。

認知症と公的介護保険

認知症により介護が必要になった場合、公的介護保険のサービスを利用することができます。続いては、認知症患者が利用できる介護保険サービスや、要介護認定の基準、自己負担割合などについて解説します。

認知症患者が利用できる公的介護保険サービス

認知症患者が利用できる主な公的介護保険サービスは以下の通りです。

• 訪問介護:ホームヘルパーが自宅を訪問し、身体介護や生活援助を行います。
• 通所介護(デイサービス):日帰りで介護施設に通い、入浴、食事、レクリエーションなどのサービスを受けます。
• 短期入所生活介護(ショートステイ):介護施設に短期間宿泊し、日常的な介護を受けます。

また、認知症の症状に応じて、以下のような専門的なサービスも利用できます。 • 認知症対応型通所介護:認知症専門のデイサービスで、少人数制で細やかなケアを提供します。
認知症対応型共同生活介護(グループホーム):少人数の認知症患者が共同生活を送りながら、家庭的な環境の中で介護を受けられます。

要介護認定の基準と手続き

公的介護保険サービスを利用するには、まず要介護認定を受ける必要があります。認定調査員による心身の状態のチェックと、主治医意見書を基に審査会で要介護度が判定されます。

要介護度は、以下の7段階に分けられています。 • 要支援1・2:日常生活に支援が必要な状態
• 要介護1~5:常時介護が必要な状態(数字が大きいほど介護の必要度が高い)

認知症患者の場合、認知機能や行動・心理症状(BPSD)の程度も考慮され、適切な要介護度が判定されます。 要介護認定の申請は、お住まいの地域の地域包括支援センターや介護保険課で行えます。

公的介護保険の自己負担割合と支給限度額

公的介護保険サービスを利用する際は、原則1割の自己負担が必要です。ただし、所得に応じて2割または3割の負担となる場合もあります。

また、要介護度ごとにサービス利用の上限である支給限度額が設定されています。 例えば、要介護1の場合は月額16万5,800円、要介護5の場合は月額36万2,170円が上限です。
支給限度額を超えてサービスを利用する場合は、超過分が全額自己負担となります。

認知症の種類と介護保険適用の関係

認知症にはさまざまな種類がありますが、原因疾患によって介護保険の適用に違いがあります。

最も多いアルツハイマー型認知症や、脳血管障害が原因の脳血管性認知症は、65歳以上であれば介護保険の対象となります。
一方、前頭側頭型認知症やレビー小体型認知症は、65歳未満でも「初老期における認知症」として介護保険の適用を受けられる場合があります。

認知症の種類65歳以上40~64歳
アルツハイマー型認知症△(特定疾病に該当すれば可)
脳血管性認知症△(特定疾病に該当すれば可)
レビー小体型認知症△(特定疾病に該当すれば可)
前頭側頭型認知症△(特定疾病に該当すれば可)

ただし、40歳以上65歳未満の場合は、「特定疾病」に該当することが条件となります。 いずれの場合も、症状によって介護が必要と認められれば、介護保険のサービスを受けることができます。

民間の介護保険と認知症保険

認知症に対する備えとして、公的介護保険だけでなく、民間の介護保険や認知症保険についても理解を深めておくことが大切です。ここでは、それらの保険の役割や特徴、加入のポイントなどを詳しく解説します。

まずは、民間の介護保険と認知症保険の種類や特徴を比較してみましょう。

民間の介護保険認知症保険
保障対象介護が必要な状態全般認知症、軽度認知障害(MCI)
給付方式実費補償型、定額給付型主に定額給付型

公的介護保険を補完する民間の介護保険の役割

公的介護保険は、要介護認定を受けた人に対して、介護サービスの提供を保障する制度です。しかし、サービスの利用には1~3割の自己負担が発生し、支給限度額を超えた分は全額自己負担となります。

ここで民間の介護保険の出番となります。民間の介護保険は、公的介護保険の自己負担分や支給限度額を超えた分の費用を補填する役割を担っています。これにより、介護にかかる経済的な負担を軽減することができるのです。

認知症に特化した認知症保険の特徴

一方、認知症保険は認知症や軽度認知障害(MCI)に特化した保険商品です。認知症と診断された場合や、所定の要介護状態になった場合に、一時金や年金などが支払われます。

認知症保険の特徴としては以下のような点が挙げられます。

  • 軽度認知障害(MCI)も保障の対象となる商品がある
  • 早期の認知症の段階から保障が受けられる
  • 認知症と診断された時点で一時金が受け取れるタイプが多い
  • 介護サービス利用の有無に関わらず給付金を受け取れる

このように、認知症保険は、認知症に備えた手厚い保障が期待できる保険と言えるでしょう。

民間の介護保険・認知症保険加入のポイント

民間の介護保険や認知症保険への加入を検討する際は、以下のようなポイントを押さえておくとよいでしょう。

  • 公的介護保険の支給限度額や自己負担割合を把握する
  • 自身の介護に対するリスクを想定し、必要な保障額を検討する
  • 定額給付型と実費補償型、一時金タイプと年金タイプなどの給付方式の違いを理解する
  • 保険料と保障のバランスを考慮し、無理のない保険料の商品を選ぶ
  • 健康状態の告知が必要なので、できるだけ若いうちの加入がおすすめ

個人の状況によって必要な保障は異なります。自身や家族の状況をよく考えて、最適な保険選びをしていくことが肝要です。

公的介護保険と民間保険を組み合わせた介護費用の備え方

認知症を含む介護リスクに備えるためには、公的介護保険と民間保険を上手に組み合わせることが効果的です。公的介護保険の枠組みをしっかりと理解した上で、そこから漏れてしまう部分を民間の介護保険や認知症保険で補完していくイメージです。

また、介護にかかる費用は、介護期間が長引くほど膨らんでいきます。退職金や貯蓄、家族からのサポートなども視野に入れつつ、公的介護保険と民間保険を組み合わせた多層的な備えを考えていくことが賢明と言えるでしょう。

公的介護保険民間の介護保険認知症保険
役割介護サービスの提供を保障公的介護保険の自己負担や限度額超過分を補填認知症や軽度認知障害(MCI)に特化した保障
組み合わせ方基本となる制度として理解公的介護保険を補完する立場で検討認知症の特性を踏まえ、必要に応じて上乗せ

認知症は誰にでも起こりうる身近な病気です。しっかりとリスクを認識し、自身に合った備えを行っていくことが何より大切だと言えます。公的介護保険を軸としつつ、民間の介護保険や認知症保険を上手に活用し、介護にかかる負担に対して、多面的な保障を整えていくことが大切です。

まとめ

認知症は高齢化社会における大きな課題であり、適切な治療とケアを受けながら、できる限り自立した生活を送るためには、公的介護保険制度を上手に活用することが大切です。

また、認知症のリスクに備えるためには、公的介護保険だけでなく、民間の介護保険や認知症保険も活用することで、介護にかかる経済的な負担を軽減することができます。自身や家族の状況をよく考えて、最適な保険を選ぶことが重要です。

さらに、認知症の発症を遅らせ、重症化を防ぐためには、日々の生活習慣を見直し、予防に取り組むことが何より大切です。定期的な検診を受け、早期発見・早期治療に努めることで、長く健康的で穏やかな生活を送ることができるでしょう。

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